演技派の心理学

演劇と心理学。

見異なるように見えるこの二つの分野には、案外、深い接点があります。

今回は、ライフ心理学アドバイザーの日向さんと、地域の文化センターで演劇講座の講師を務める村上さんの対話を通じて、感情表現と自己理解について考えていきます。

料理教室がきっかけで知り合った2人。

その会話から、日常生活に活かせる心理学のヒントが見えてきます。

(料理教室の後かたづけ中)

 

日向さん「今日のレッスン、楽しかったですね。村上さんのキッシュ、見た目も味も完璧でした」

 

村上さん「ありがとう。でも、日向さんの方こそ上手だったわよ。最近は料理上手になったわね」

 

日向さん「週1で通い続けた成果かもしれません。ヨガと料理が、私の楽しみですから」

 

村上さん「そうそう、日向さん。今日は相談があって…」

 

日向さん「はい、なんでしょうか?」

 

村上さん「文化センターの演劇講座で、ちょっと気になる生徒がいるの。感情表現が苦手で悩んでいる方なんだけど…心理学の専門家として、アドバイスをいただけないかしら」

 

日向さん「心理学の専門家というと恐縮です。私はライフ心理学アドバイザーなので…でも、お役に立てることがあれば」

 

村上さん「そうよね、いつも控えめなあなたらしい言い方ね。でも、2年前に料理教室で出会ってから、あなたの話、すごく勉強になってるのよ」

 

日向さん「私こそ、村上さんの演劇の話、いつも興味深く聞かせていただいています。それで、その生徒さんは具体的にどんな…?」

 

村上さん「30代前半のOLの方なの。職場でも感情表現が苦手で困っているみたいで。演劇を始めたのも、その克服のためだったんだけど」

 

日向さん「なるほど…あ、でも、その前に。例のカフェ、今日も寄っていきませんか?」

 

村上さん「ええ、ぜひ。落ち着いて話せるものね」

 

(カフェに移動して)

 

村上さん「実は私、演劇指導の中でも、感情表現の部分って特に難しいと感じているの。技術的なことは教えられても、その人の内面からの自然な表現を引き出すのって…」

 

日向さん「心理学的に見ると、感情表現の苦手さには、いくつかの要因があります…あ、すみません。また講義口調になってしまいそうで」

 

村上さん「いいのよ、その話聞きたいわ。あなたが遠慮するの、もったいない」

 

日向さん「ありがとうございます。でも、まずは村上さんの演劇指導のアプローチを聞かせていただけますか?」

 

村上さん「そうねえ…基本は『型』から入るの。例えば『怒り』なら、眉を寄せて、声を強めてって。でも、それだけじゃ本当の表現にはならないのよね」

 

日向さん「なるほど。実は心理学でも似たようなアプローチがあって…表情筋を意識的に動かすことで、実際の感情にも影響が出るという研究があるんです」

 

村上さん「興味深いわね。私、経験的にはわかってたけど、科学的な裏付けがあったのね」

 

日向さん「はい。でも、村上さんがおっしゃるように、それだけでは不十分かもしれません。その方は、職場でも感情表現を抑制する傾向があるんでしょうか?」

 

村上さん「そうみたい。『感情的に見られたくない』って言うの。特に怒りの感情は完全に抑え込もうとするみたい」

 

日向さん「それは…健康上もよくないかもしれません。感情の抑制は、かえってストレスを増やすことがあるので」

 

村上さん「やっぱり。私も気になってたの。でも、演劇の枠だけで解決するのは難しいかなって」

 

日向さん「んーあの、提案なんですが。まず『演技』を、ごまかす、自分を偽る、といったネガティブなものじゃなく、自己表現のスキルとして捉え直すというのはどうでしょう?」

 

村上さん「それ、いいわね!確かに『演技』って、ある意味、否定的に見られがちだけど、コミュニケーションの重要なスキルよね」

 

日向さん「はい。適切な自己主張のためのツールとして…あ、また説明的になってしまいました」

 

村上さん「もう、そんなに遠慮しないで。あなたの話、すごくわかりやすいのよ」

 

日向さん「ありがとうございます。実は私、以前は話しすぎて周りに煙たがられることが多くて…」

 

村上さん「以前は?(笑)」

 

日向さん「今もでした(笑)」

 

村上さん「日向さんも自分のそういう部分をを意識して変わろうとしてきたのね。その経験も、きっと今回の件に活かせるわ」

 

日向さん「そうかもしれません。感情表現も、抑制しすぎず、かといって放出しすぎず…その適度なバランスが大切だと思います」

 

村上さん「なるほど。実は次のレッスンで『感情の強弱』を扱おうと思ってたの。心理学の視点も取り入れて、新しいアプローチを考えてみるわ」

 

日向さん「私も勉強になります。演劇の手法を心理学と組み合わせるって、とても興味深いですね」

 

村上さん「ねえ、今度の講座、見学に来ない?きっと新しい発見があると思うの」

 

日向さん「え、でも…私なんかが」

 

村上さん「来週も料理教室で会えるけど、その時に詳しい話をしましょう」

 

日向さん「はい、ぜひ。今日も素敵な学びをありがとうございました」

 

村上さん「私こそ。この話で、新しいアイデアがたくさん浮かんできたわ。演劇と心理学、奥が深いわね」

 

 

今回の学び

感情表現が苦手な場合、「演技」を自己表現のためのスキルとして捉え直すことが有効です。表情筋を意識的に動かすことで実際の感情にも変化が生まれるため、適切な自己主張のツールとして演劇的手法を日常に取り入れてみましょう。