「どれだけ準備しても、画面の向こうのお客様の反応が見えなくて不安……」「毎日アクセス解析の数字ばかり追いかけて、心が休まらない」そんな悩みを抱えていませんか?今回は、ライフ心理学アドバイザーの日向マユさんと、自身の新事業としてこだわり農産物のネットショップを立ち上げた起業家の矢部さんとの対話をお届けします。ネット上で一人で店舗を運営するオーナーが陥りがちな「孤独な焦り」の正体を心理学の視点で紐解き、日々の運用疲れをリセットするための具体的なアプローチを探っていきましょう。
矢部さん「(古民家カフェのテーブルで、ノートパソコンを開いたままフリーズしている。画面には複雑な折れ線グラフが並んでおり、大きく深く、ため息をつく)…はぁ、ダメだ。見れば見るほどドツボにハマるというか…」
日向さん「(注文したアイスハーブティーのグラスをトレイから下ろしながら)矢部さん、お疲れ様です。…って、なんだかものすごく険しい顔をして画面を睨みつけていますね。氷が溶けちゃうくらいにため息が重いですよ?」
矢部さん「あ、日向さん、すみません。気づきませんでした。いやぁ、ネットショップの運営、いよいよ先月から本格始動したんですけどね。…なんていうか、デジタル上の数字とにらめっこしていると、どうも実感が湧かないというか、急に底なし沼に落ちたみたいに気が滅入ってくるんです」
日向さん「本格始動、おめでとうございます! 矢部さんがこだわって作ったあの有機野菜や加工品が、ついに全国どこからでも買えるようになったんですね。とっても素敵なことじゃないですか。でも、体調は大丈夫ですか? 少し目の下にクマができているような…」
矢部さん「体は元気なつもりなんですけど、心が休まらなくて。対面のマルシェで販売していた時は、『美味しいね』とか『これどうやって食べるの?』って、お客様の顔や声がその場で見えたじゃないですか。でもネットショップは、画面の向こうのお客様の反応がまったく見えないんです」
日向さん「そうですね。ネットショップは、購入ボタンが押されるまでは、誰がどんな表情でサイトを見ているのか、物理的には見えませんものね」
矢部さん「そうなんですよ! だから、サイトを開設してからというもの、毎日売上やアクセス数のデータ(PV)を秒単位でチェックするようになっちゃって。あ、今1人入ってきた、あ、離脱した、みたいな。特に、夕方になって数字が昨日より少しでも下がっていると、『自分の書いた商品説明が独りよがりだったんじゃないか』とか『写真の映りが悪くて嫌悪感を持たれたんじゃないか』って、過剰に不安になってしまうんです。気づけば、仕事中もスマホで1日に15回以上も管理画面をリロードしてリフレッシュボタンを押しているんですよ。自分でも異常だと思うんですけど、止められなくて」
日向さん「1日に15回も! それは気が気じゃありませんね。食事中や、夜ベッドに入ってからもスマホを枕元に置いてチェックしていませんか?」
矢部さん「(苦笑しながら目をそらす)…完全にバレていますね。夜中の2時に目が覚めて、注文が入っていないか確認して、入っていないと『あぁ、やっぱりダメか』って落ち込んで、そこから朝まで眠れなくなったりします。ITの仕組みやシステム自体はSE時代の経験があるから熟知しているはずなのに、自分の心だけが、どうしてもコントロールできなくて振り回されっぱなしなんです」
日向さん「(少し身を乗り出して、声を和らげる)なるほど。矢部さん、そのお気持ち、ネットショップを運営する多くのオーナーさんが共通して抱える現代病のようなものなんです。心理学の視点から見ると、これは『不確実性の不耐性(イントレランス・オブ・アンサータンティ)』が高まっている状態と言えます」
矢部さん「ふかくじつせい…の、ふたいせい? なんだか難しそうな言葉ですね。要するに、僕がただの心配性で行き過ぎた結果、ということですか?」
日向さん「(慌てて手を振りながら)あ、いえいえ! 決して矢部さんの性格のせいという意味ではないんです。つい専門用語を出して解説したくなっちゃう私の悪い癖ですね、ごめんなさい。簡単に言うとね、『先が見えないこと』や『結果がどうなるか分からない状態』に対して、脳が強いストレスや恐怖を感じてしまう、人間としてとても自然な防衛反応なんです。対面コミュニケーションがないネットの世界では、人間は相手の『沈黙』をポジティブなものとしては解釈しづらいんです。レビューが書かれていない、SNSで反応がないという状態を、脳は無意識に『嫌われているんじゃないか』『魅力がないから無視されているんだ』というネガティブな情報として勝手に穴埋めしてしまうんですよ」
矢部さん「…! まさにそれです。お客様から何も言われていないのに、『レビューがない=満足していない、怒っているんじゃないか』って、勝手に悪い方に妄想を膨らませて自爆していました。数字が下がること自体が、自分という人間そのものを否定されているような気分になっていたんです」
日向さん「真面目で、何事も完璧に仕組み化しようとする矢部さんだからこそ、コントロールできないはずの『他人の行動の数字』まで、すべて自分の責任に感じてしまっているんでしょうね。でも、かつてIT企業で過労からバーンアウトを経験された時のことを思い出してください。あの時も、自分でコントロールできない領域まで背負い込もうとしていませんでしたか?」
矢部さん「(ハッとした表情になり、ゆっくりとパソコンの画面を見つめる)…あ。そうですね。あの時も、システムのバグやクライアントの急な仕様変更という、自分ではどうしようもないことに24時間意識を支配されて、頭がパンクしました。今、ネットショップのアクセス解析の折れ線グラフを見ながら、全く同じことをやっています。このままだと、またせっかく回復した心が燃え尽きてしまいますね」
日向さん「気づけて素晴らしいです! 農業体験で心を取り戻した矢部さんには、健康的にビジネスを続けてほしいですから。そこで、この『孤独な焦り』から抜け出すために、今日からデータとの間に『境界線』を引く具体的なルールを2つ作ってみませんか?」
矢部さん「ルール、ですか。具体的には、何をすればいいんでしょうか」
日向さん「はい。まず1つ目は、時間と回数の物理的な制限です。『管理画面を開いてデータをチェックするのは、1日2回、朝の9時と夜の18時だけ』と時計で決めるんです。それ以外の時間は、スマートフォンの管理アプリの通知を一切オフにしてください。矢部さんの場合、1回リロードして一喜一憂するのに約2分、それを1日15回やっているということは、毎日最低でも30分間は『無駄に心をすり減らす時間』に使っています。通知をオフにするだけで、この30分間を丸ごと削減して脳を休めることができますよ」
矢部さん「1日2回だけ…。確かに、1時間ごとに見たところで、劇的に売上が変わるわけじゃないですもんね。分かってはいるけど、いざ通知を切るとなると、最初は少しソワソワしそうです」
日向さん「最初は禁断症状みたいにスマホに手が伸びるかもしれません(笑)。だからこそ、2つ目のルールが重要になります。それは『アンカリング(評価の基準)の置き場所を変える』ことです。これまでは、アクセス数や売上という『他人の反応(=自分ではコントロールできない数字)』を基準にして一喜一憂していましたよね。それを今日からは、『今週は新しい商品の紹介ページを1つ、丁寧に作り切った』とか『お客様に届ける梱包の資材をより綺麗なものに変えた』という、自分の『具体的な行動そのもの』を成果のアンカー(錨)にするんです」
矢部さん「なるほど…。変えられない他人の反応に一喜一憂するのをやめて、自分が100%コントロールできる自分の行動だけに集中する、ということですね」
日向さん「その通りです! ネットショップのアクセス数なんて、1日単位で見たら曜日や天気で激しく上下して当たり前なんです。そんな暴れ馬みたいな数字に心を委ねるのではなく、1週間単位の平均値を週末に1回だけ冷静に分析すれば、ビジネスとしては十分なんですよ。浮いた時間とエネルギーを使って、商品にお客様への手書きの感謝カードを同梱する準備を整えるなど、目の前の『具体的な満足度向上』に時間を使った方が、精神的な健康にも、結果としての将来の売上にも、何倍もプラスになりますよ」
矢部さん「(ノートパソコンの画面をパタンと閉じ、アイスコーヒーをゴクリと飲んで、ふっと表情を緩める)…確かに。数字を追いかけてスマホを睨みつけている時間があったら、次の仕入れの野菜をどう育てるか、土いじりをしている方がずっと健全で、僕らしいですね。他人の動きではなく、自分の行動を評価する。明日からさっそく、アプリの通知をオフにして、チェックの回数を朝晩だけに制限してみます。なんだか、視界がすっきりして心が軽くなりました」
日向さん「ふふ、良かったです。矢部さんのネットショップから届くお野菜、私も楽しみにしているんですから、オーナーが疲れた顔をしていたら寂しいですからね。自分のペースで、一歩ずつ育てていきましょう!」
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今回の学び ネットショップ運営のように「相手の顔が見えない環境」では、コントロールできない数字に依存せず、自分の「具体的な行動」に評価の基準を置くことが大切です。データを確認する時間や回数に明確なルール(境界線)を設けることで、心の健康を保ちながら、持続可能なビジネスを育てていくことができます。 |
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