「お金や土地の分け方で、なぜあんなに家族が揉めてしまうんだろう…」
そんな風に悩んだことはありませんか?
法律や数字だけでは解決できない「相続」の裏には、実は人間の根深い心理メカニズムが隠されています。
今回は、クライアントの親族トラブルに頭を抱える税理士の星野彩香さんと、ライフ心理学アドバイザーの日向マユさんの対話をお届けします。
感情の対立を紐解き、大切な家族の絆を守るための心理学的なアプローチを一緒にのぞいてみましょう。
星野さん「(カフェのテーブルで、深いため息をつきながらアイスコーヒーのグラスを見つめる)…はぁ。数字の上では1円単位まで平等なのに、どうしてあそこまで感情的になってしまうんだろ…」
日向さん「星野さん、お疲れ様です。…って、なんだかいつにも増して、背負っている書類カバンと同じくらい顔色が重そうですよ? 氷がすっかり溶けちゃうくらいの深いため息でしたね」
星野さん「あ、日向さん、すみません。気づかなくて。実は、今日お会いした相続案件のクライアントのごきょうだいたちのことで、ちょっと頭が痛くて…。税理士として、法律や税金面で最も公平で損をしない分割案を提案しているのに、話し合いの席がまるで戦場みたいに怒号が飛び交う事態になっちゃったんです」
日向さん「(心の中で:あ、また私の『教えたがり』な性質がウズウズしてきた…。でも、星野さんは本当に悩んでいるみたいだし、まずは少し控えめに…)そうだったんですね、それは大変でしたね。大切な家族を亡くした直後ということもありますし、財産が絡むと、どうしても人間の剥き出しの感情がぶつかり合いやすくなるものなんです」
星野さん「ええ。正論だけじゃ火に油を注ぐだけだって痛感しました。日向さん、これって心理学的には、一体彼らの心の中で何が起きているんでしょうか?」
日向さん「(嬉しそうに目を輝かせながらも、一呼吸置いて声を整えて)そうですね。まず一つ、大きな要因として考えられるのは『損失回避バイアス』です。人間って、何かを得る喜びよりも、何かを失う痛みの方を2倍近く強く感じる性質があるんですよ」
星野さん「損失回避バイアス…。失う痛み、ですか?」
日向さん「はい。たとえば、親御さんが遺した財産を『もらえるはずの期待値』として各自が心の中で計算しているとですね、そこから10万円、20万円と自分の取り分が減らされるだけで、脳は『自分の持っている財産を奪われた!』という強烈な損の痛みを錯覚してしまうんです。以前、物価高のコラムで海野さんがキャベツの値上がりにストレスを感じていた『価格の心理学』の話、覚えていますか?」
星野さん「あっ!あのお金をお財布や心の中で色分けしちゃう『メンタルアカウンティング(心の家計簿)』の話ですね」
日向さん「その通りです!さすが星野さん、結びつけるのが早いですね。相続でもまさにそれが起きていて、きょうだいたちが各自の『心の家計簿』で、財産に数字以上の重みを勝手に課しているんです。例えば、『私は長年実家を守ってきたから、この土地は私の苦労の対価として当然のものだ』という風に」
星野さん「なるほど…。全員が『自分だけが損をしている』と思い込んでいるから、譲り合いが起きないんですね。でも、それだけじゃない気がするんです。話し合いの後半、みんなお金の話じゃなくて、昔の愚痴ばかり言い合っていましたから」
日向さん「(深くうなずきながら)そこが、相続の心理学で最も本質的で、一番根深い部分かもしれません。心理学の『愛着理論』の視点から見るとですね、相続問題というのは、単なるお金の奪い合いではなくて、子供の頃からの『親からの愛情の答え合わせ』であるケースが非常に多いんですよ」
星野さん「親からの愛情の、答え合わせ…?」
日向さん「ええ。『私の方が最期まで介護で尽くしたのに、なんで昔からひいきされていたお兄ちゃんと同じ額なんですか?』とか、『お前は大学まで出してもらったのに、高卒の俺への配慮がない』とか。子供の頃に満たされなかった愛着の渇望や不満という『未清算の感情』が、親の死をきっかけに、遺産額という分かりやすい『数字』に変換されて爆発してしまうんです」
星野さん「(ハッとして、思わず膝を叩く)…点と点がつながりました! だから彼らは、ルール的に100点満点の分割案を見せても納得せず、『あの時、母さんはこう言った』『お前はいつも身勝手だった』と過去の感情をぶつけ合っていたんですね。数字でいくら辻褄を合わせても、心の計算式が狂ったままだったんだ…」
日向さん「気付けたのは素晴らしいことですよ。法律は財産を分けることはできても、過去の恨みっこまで綺麗に分配することはできませんからね」
星野さん「でも、だとすると私たち税理士は、これからどうやってクライアントに関わっていけばいいんでしょう? 正論が通じないとなると、お手上げです…」
日向さん「そんなことないですよ。星野さんが以前、私の講座で実践して効果を感じてくれた技術があるじゃないですか。…そう、『積極的傾聴』です」
星野さん「積極的傾聴…。相手の言葉を否定せず、深く耳を傾けるスキルですね。でも、あの揉めている話し合いの場で、それをやるんですか?」
日向さん「いえ、全体の場でやると火に油になりますから、あえて『事前の個別面談』で徹底的に使うんです。全員が集まる前に、一人ひとりの言い分、つまり数字の裏に隠された『過去の不満』や『認めてほしかった本音』を星野さんが個別にしっかり受け止めてあげるんです。感情を言葉にして吐き出させることでスッキリする『カタルシス効果』が働けば、全体の場に臨むときには、少し冷静な状態を作れる可能性が高くなりますよ」
星野さん「(深く深呼吸をして、表情が柔らかくなる)…個別でのカタルシス、ですね。確かに、自分の気持ちを一度専門家に分かってもらえたと思えれば、意固地な態度も和らぐかもしれません。なんだか、次の面談に向き合う心の余裕、心理的安全性が見えてきました」
日向さん「(嬉しそうに声を弾ませて)よかったです! プロである星野さんが、さらに心理学の視点を持ってクライアントの心に寄り添うようになったら、きっと誰にも真似できない『日本一安心できる税理士』になれると思いますよ!」
星野さん「日本一はハードルが高いですが、まずは次の個別面談で、しっかり『心の家計簿』と『過去の想い』を聴くことから始めてみます。日向さん、今日も貴重な知恵をありがとうございました!」
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今回の学び 相続で家族が激しく対立してしまうとき、それは額面の争いではなく、過去の感情や愛情のすれ違いが原因かもしれません。 法律や数字の正論で押し通そうとせず、まずは各自の「損したくない気持ち」や「認められたい想い」に個別に耳を傾けることが、トラブルを予防し解決へ導く最初の一歩となります。 |
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